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主人公たちの糸が手繰り寄せられ、からまりはじめ…。
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市街の大通りに面した瀟洒なパン屋。父が残した借金を返すために働いてきたユジン。やっとひとかどの店になってきたと安堵する毎日だ。焼きたてのパンを皿に移しかえ振り返ると、テサンがリボンのついた大きな箱を抱えて立っていた。主人公たちの糸が手繰り寄せられ、からまりはじめ…。
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「社長からの贈り物です」
「贈り物?贈る気持ちがあるなら、どうして自分で届けてくれないの?」
「それは…。でもご自身でお選びになりました」
ユジンはため息をついた。最近、ずっとこう。あの人に多くは望まない。望んでも空しくなるだけ。そんなことずっと前からわかっているわ。ハ・ガンジェの女と呼ばれるようになって八年にもなるのよ、そんなことわかっているわ。わかっているけど…。贈り物をもらうたびに空しくなるのはなぜ?届くのはあなたの心ではない、そんな気がするの。
何も答えないユジンに困ったテサンは、箱をおくと一礼して店を後にした。
不安な気持ちは家に帰っても晴れることはなかった。カンジェが来ない部屋。居間のテーブルにはあけてもいない箱。鳴らない携帯電話。そして妊娠検査薬。あの人の子どもを産みたい。そんな願いが現実になったのに、うれしくないのはなぜ?胸に募る不安を断ち切るように立ち上がったユジンは、携帯の着信を告げる光を見ることができなかった。
なぜ電話に出ない?何が不満なのだ?わからない。俺にくれる情けにだけは応えるようにしているのに…。居間に戻ったカンジェはユジンへの電話を切った。ふと、あの夜がよみがえる。ソファに座るカンジェの隣で、彼のシャツを羽織っただけのユジンは言った。
「私たち結婚するの?」
「いや、しない」
「じゃあ、子どもを生んでもいい?」
「いや、だめだ」
「ひとでなし…」
自分の肩に頭を預けたユジンの髪をなでるだけだったカンジェ。結婚も子どもも、まして家族も俺は望まない。望んだことはない。そんなことわかっている女のはずなのに。
ドアを軽くノックする音。カルテをめくりながらミジュが答える。
「はあい、どうぞ」
患者が入ってきた。ミジュが顔をあげて彼を見る。この男、どこを整形したいのかしら?整った顔をしているのに。ミジュはカルテと男の顔を交互に見た。
「カン・セヨンさんですね?整形をご希望なのですか?」
「はい」
男は明るく答えた。
「ええと。二重まぶたにしたいのですか?」
「ええ。まあ、そんなところです」
「本当に?」
「だめでしょうか?」
「いいえ、そんなことはないですが。でも、今でも充分きれいなお顔ですよ。そうね、少なくとも世の中の三十パーセントの人たちはあなたに魅力を感じると思います」
「へええ。でも、あなたは感じていないように見えるけどな」
「え?」
コーヒーをいれて一服したミジュは、秘書のスンジュンにぼやいた。
「聞いてよ、最近は患者さんからも迫れちゃって。困ったものだわ」
「患者さん?いい男でした?」
「それがね…」
「ユン先生!」
声の主を探すと、ヤングムが笑顔で近づいてくる。ミジュの顔はひきつった。見合いの文句を言おうとすると、ヤングムが先に制した。
「わかっているわ、私が画策したのよ。許してね。でもどうだった?感想は?」
「あの、ですね…」
「チェ・ヤングム女史、お元気でしたか?」
すると、さきほど患者としてやってきた男が笑顔で近づいてきた。ヤングムが急に笑顔になった。
「あら、やだ。ふたりとももうそんな仲になったの?」
ミジュが戸惑う。
「は?この人は私の患者で…」
ヤングムがミジュを軽くにらむ。
「ユン先生ったら。お見合いしたでしょう」
「え?」
事情をのみこめないでいるミジュに、セヨンが言った。
「あなたを試しました」
「は?」
「お見合いしたくなかったから別の人を行かせました」
「試した?私を?」
ミジュが驚いて声を荒げた。セヨンはかまわず、ヤングムに言った。
「この人もあなたにうそをついたでしょう?私が息子だって言わなかった」
「息子?あなたが本当の息子なの?」
ミジュはびっくりして声もでなかった。
おかしな親子が帰った後、ミジュはスンジュンに言った。
「でもどうして私を試したりするの?へんなの?」
「ユン先生、そんなことどうだっていいじゃないですか。相手は超お金持ちですよ、かっこいし。文句なしじゃないですか。いいなあ。ね。先生。私にもちゃんと紹介してくださいね。お友達でいいですから」
お金持ちね…。勝手なことをする人たちだわ、まったく。
ミジュと別れたセヨンは、久しぶりにあった母親とカフェにいた。
「どう?いい娘でしょう?」
「また、お母さんの結婚させたい病が始まったのですか?」
「そうよ。貧しいところが気にいったの」
「貧しいのがいいのですか?」
「そう。優越感を感じていられるわ」
「変わりませんね、お母さんは…」
「早くお父さんを安心させてあげて。」
父の話しを聞いたセヨンは顔を曇らせた。
「相変わらずですか?」
「新しい事業を始めるそうよ。ええと。建築会社をやるって。新しい家を建てたいのね」
「ああ、ペグン建設…」
「あら、知っているなら手伝いなさいよ」
「いいや。興味ありません」
セヨンはいかにも興味がなさそうに、コーヒーカップを口に運んだ。
母親に顔をしかめてみせたセヨンだが、ホテルに帰るとさっそくパソコンを起動させてペグン建設の会社情報を検索した。株式情報を眺める。
思い通りにはいきませんよ、お父さん。あなたが私の思いをかなえてくれなかったのと同じです。
ああ、また鍵が閉まらない。ミジュは再び自宅の鍵と格闘していた。今度は閉まらない。早くしないと遅刻しちゃうじゃない。一分でも遅刻すると院長がうるさいっていうのに。
隣のドアが静かに開いて、白いドレスの隣人が出てきた。
「おはようございます」
「おはようございます。」
え?うそ?あのドレス?ミジュがドレスに気づくと、
「これ…。ひとと同じものを着るのは嫌いなのですけど。プレゼントをあけてみたらこれが…。せっかくだから着ようと思って。じゃ、お先に」
ミジュは一応笑顔をつくったものの、心中穏やかではなかった。
なによ、彼氏がお金持ちだからって、あの態度!あのドレス。私のものだったのに…。プレゼントって。じゃ、この間のあの男?ミジュはため息をついた。
やっと鍵を閉めると駐車場に下りた。目の前に男が数人立ちはだかる。何事?若い男が一歩前に出ると言った。
「社長からのプレゼントです。」
男が下がるとオープンカーがそこにあった。
え?うそ?プレゼント?私に?一回しか会ってないのに?思わずゆるんだミジュの頬。が、一瞬でその頬はこわばった。
「いらないっていったらどうするの?」
ミジュの後ろから女が現れた。隣人だった。彼女は怒ったような顔で若い男の正面に立った。若い男は申し訳なさそうに言った。
「小さな車は危ないから、これを使うようにとのことです」
「いらないといっても置いていくのでしょう?でも、私がほしいのは運転してくれる人よ」
そういうと、女はぴかぴかの新車には目もくれず、ミジュを追い越していった。
ぽかんとして一部始終を見ていたミジュは、我に返ると動揺を隠すようにわき目もふらずに自分の車に向かった。あんな新車がプレゼントなの?ドレスももらったのに?なのに、断るわけ?何なのよ!
「痛っ!」
よそ見をしていたミジュは大きな車の前のコーンを思い切り蹴飛ばして転がった。あの男たちが見ている!そう思うと、ミジュは痛みをこらえて立ち上がり、車に寄りかかった。もう!車をたたく。
「何をしているのですか?」
先ほどの男がいぶかしげに言う。
「何って、別に…」
痛くて動けない。
男がオートキーのボタンを押すと、今寄りかかっている車のライトが点滅した。うそ、この車の持ち主なの!もう、ついてない!
自分の中古車をやっと出したミジュは車の中で独り言ちた。
「こんな車ほしくないわ、欲しいのは運転してくれるひとよ?ふん。ドレスはもらえて車はもらえないってわけ?どうせもらうなら素直にもらえばいいじゃない。まったく。…。私のほうがきれいよ、そうよ、絶対きれいよ。なのに、どうして私にオープンカーをプレゼントしてくれる男はいないわけ?」
ミジュは気分転換にカーラジオをつけた。愉快なトロットに合わせて大声で歌うことで、とりあえず今朝のストレスを発散した。
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